88歳の友人
2017-09-30


Yさんが言っていた。

夏に亡くなられた夫さんの遺影の前に花がたくさん飾られたリビングで、
「最近、よく中也のあの詩が思い浮かぶの」と。

〜あゝ おまへはなにをして来たのだと……
吹き来る風が私に云ふ〜

中也の「山羊の歌」の中の「帰郷」という詩だ。
私の世代では、中也の詩は、必ず国語の教科書に載っていたのではないかと思う。
が、Yさんは戦前生まれ。
私の母と一つ違いの昭和4年だ。

調べていないのだけど、
中也の詩が、母の世代の人が教科書レベルでなじんでいるとは思いにくい。
と言うか、母の口から中也の名前を聞いたことはない。
翻訳詩がよく読まれたであろう世代だから、
ブラウニングやハイネは、母から教わったけれど。

Yさんの口から、中也のこの詩を聞くとは思わなかった。
私のような者こそが、
いたく心に刻むi一節だと思っていたのだ。

そして、こんなにも社会的に活躍して、
いろいろな著名な人から、夫を亡くして弔電をもらうYさんが、
そのような感慨を持つのが意外だった。

人にはそれぞれ、成したかった何かがあり、
潰えた志のかけらがあり、
未完成の自己感をかかえるものなのかとしみじみ・・・
[思い出]

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